鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 いつものキースであれば、指摘した方が本人のためだと言葉を選んで知らせたはずだった。だが、それは出来なかった。

 自分に喜んでもらえたとはにかむ可愛い笑顔を、万が一にも曇らせたくなかったからだ。

(参ったな……何歳差だ? 俺は、年下が好きだったのか……)

 キースは竜騎士団の団長として前団長から後継者として指名されたのは、入団して三年も経ってはいなかった。だが、その時の彼の目は確かだったのだろう。

 幾度も死線を切り抜けた今でこそ、理解が出来る。複雑な事情を持っていたキースが団長で誰もが驚くような目覚ましい手柄を立て続けなければ、いけない理由があったのだ。

 団長の職務は、一竜騎士としてただ誰かに従って居れば良いというものではない。各方面との折衝、血の気の多い部下を纏め上げる責任。戦闘で気の抜いた部下を失いたくないために、彼らの前では常に厳しくあらねばならないという緊張感を保つこと。

 息つく間もない生活の中で、心を慰める潤いが出来た。

 それを、手放せなくなった。

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