鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
(彼女を囲っていた権力者たちのように……俺も? 生まれた時から、利用されたという過去を持つ女の子に、無理強いは出来ないな……)

 自分の心を奪う女になど、会えるとは思っていなかった。もし出会うとすれば、嵐のような全てを浚うようなそんな強い存在感のある女なのかとキースは勝手に想像していた。

 だが、それは今ではどうだ。家で自分を待ち帰れば可愛い笑顔を見せている女の子が、目にすれば心を震わせるほどに愛しい。

 オデットは月魔法を使うことの出来る能力以外では、身体ひとつだ。何も、持っていない。両親はわからないし、なんなら敵国の重要人物たちが我先にと奪い合うという曰く付きの女の子だ。

 神の加護を持つだけでも、この世界では極稀だ。そうして、彼女の持つ月魔法は余りに利用価値が高過ぎる。

(やっぱり……好きなんだろう)

 彼と契約し数年経ち竜に心を覗かれることには大分慣れて来たキースでも、この思索が誰かに知られることには抵抗があった。

 それは、相棒であるセドリックもわかってはいるはずだった。どこか苛立つ気持ちをぶつけるように、キースは言った。

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