鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 オデットは何をするにも決められて縛られて、自らの意志など少しも必要とされていなかった。

 それは、もしかしたら今考えれば楽なことだったのかもしれない。月魔法を使用する以外は、何もしなくて良かった。努力することも、何も求められていなかった。

 キースの傍に居て生活していく中で、自らが居た立ち位置を今では他人事のように俯瞰出来るようになったのだ。

「キース。私、竜騎士団の皆さんの治療がしたいです」

 朝、城へと出掛ける前のキースにオデットはそれを頼むことにした。

 彼は何も知らないオデットのためにと、かなり仕事を制限したり部下に任せたりしているのだが、そうだとしても抱えている仕事は膨大な量に及ぶ。どうしても職場に出向かねば、ならないことはある。

 オデットしか使うことの出来ない月魔法は使用には制限があるものの、その分威力は絶大だ。身体に欠損があったり、もう余命いくばくもない人も、全て治療してしまえる。死神の迎えを退け、誰だって救うことが出来る。

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