鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「まあ、なんだ……自分探しは若者の特権だ。思う存分に悩んだ方が良い。俺にはお姫様には、キースに愛される価値があると思う。傍にいるだけで、逃げ場のないあいつの心を癒し救うんだろう。それは、多分……お姫様があいつの気持ちを、誰よりもわかっているからじゃないか」

「キースの、気持ちを?」

 首を傾げたオデットに、アイザックは頷いた。

「俺はあいつと付き合いだけは長いが、立場が全然違う。気楽な庶民出身だし、こうして竜騎士にもなっているから。円満な関係の両親はそれだけで満足だし、金なら唸るほどに持っている。正直、不満と言える不満はない。そんな俺には、窮地に近い場所に延々立ち続けるあいつの気持ちは、決して理解はしてやれないだろう。苦しい気持ちをわかってやれると言うだけで、俺には十分だとは思うがね」

「……でも」

 オデットは、その先の言葉を続けるのをやめた。

 アイザックの言う通りだと、思ったのだ。生まれ落ちたその瞬間から、何もかもを縛られ決められ持っている能力を期待される。キースはだからこそ、逃げていたオデットに対して献身的とも言えるほどに親身になってくれたのかもしれない。

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