鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
◇◆◇

 空飛ぶ竜に乗れば、馬車で時間を掛けて進む道のりも一瞬だ。紫色は徐々に濃くなり、夜に包まれればもう一番星が見える黒い空になるだろう。

 アイザックの相棒の赤竜が、城にある大きな発着場にザッと砂埃を上げながら舞い降りた。竜に取り付けられた大きな鞍からオデットが降りるのを手伝いながら、彼は宥めるように低い声を出した。

「良いか。ここからは、俺に従ってくれ。お姫様が動揺している事は俺にだって理解出来る。だが、城に居る治療師の一人だと言う事にするから誰かに聞かれればそう答えてくれ。あんたの正体が何者かが知れ渡ってしまえば、余計な火の粉を被るのはキースになる。どうか、焦らずに冷静にしてくれ」

 落ち着いて欲しいと言外に伝える彼の言葉に、オデットはこくこくと大きく頷いた。とにかく早く、苦しんでいるだろうキースの傍に行きたかった。

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