鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 オデットは彼の望みを、叶えるべきなのだろう。ゆっくりと彼の傍から離れて、扉の外で待っていたアイザックに告げた。

「案内を、お願いします」

「……わかった」

 複雑な表情のアイザックは、それから余計な事は話さなかった。

 無言の彼に案内されて向かった先の病室に寝かされていた黒髪の竜騎士は、瀕死に思えるような重傷を負っていた。意識を失ってしまうほどの痛みか、それとも痛み止めが聞いているのか。目を閉じ苦悶の表情を浮かべている様子は、とても痛々しかった。

 意識を集中させて月魔法を使い、彼を治療した。眩い白い光がきらめき、すうっと穏やかに寝息をたて始めた彼を確認して、オデットはほっと息をついた。

「ありがとう」

 アイザックはしんとした部屋に溶けてしまいそうな掠れた声で、オデットに礼を言った。

 キースだけでなく彼にとっても、大事な部下の一人なのだ。こうして代わって礼を言うことは、何のおかしな事でもなかった。

(彼の大事な人の命を助けることが出来て、本当に良かった。でも……)

 オデットは、部屋にある窓の外を見た。白くて丸い、大きな月。

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