鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 オデットの所有権を握っていた権力者たちは、彼女が賢くなることを決して望まなかった。

 庶民には考えられないほどの贅沢な暮らしは与えられるものの、オデットの意志などそこには何の意味もない。ただただ、その月魔法だけを彼らは必要としていたのだ。

「偉い」

 昼過ぎに文字を書くことに夢中になっていると、いきなり頭上から低い声が聞こえてオデットは慌てて見上げた。

「キース……びっくりした」

「悪い悪い。俺も声を掛けたんだが、夢中になっているようだった。今日も勉強か。俺も、騎士学校時代は必要に迫られて机に向かって勉強をしていたものだが、もう一回あれをやり直せと言われたら、裸足で逃げるわ。こうしてやらなくても良いことを自主的にやってて、オデットは偉いな」

 キースはオデットが積み上げている内の一冊、分厚い貴族名鑑を見て微妙な表情を浮かべた。

「あのっ、私。勉強が好きかもしれません。何だか、知らないことを知っていくの楽しいです」

 羽根ペンを置いて嬉しそうにキースを見つめれば、彼はオデットの結っていた長い髪を撫でて言った。

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