鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 必死で走っていて、あまり素敵とは言えない自覚のあったオデットは顔を赤くした。

「そうだ……オデットはあの時に、自分をどこまでも追ってくる嫌な運命から、どうにか逃げようとしていた。抗えるはずもない、恐ろしい化け物から。非力な女の子が、たった一人でな。あまり考えた事もなかったが。俺は、勇気のある奴に弱いのかもしれない。どんなに無謀だと思われるような事にでも、挑戦して。そしてまた失敗しても、諦めずに繰り返すんだ。オデットの事情を聞いた時に、好感を持ち恋に落ちたとも言える。だから、きっとあの時だろう」

 ゆっくりとキースの顔が近づいて、そして形の良い唇が頬に軽いキスをした。

「私は……キースが好きなのは、きっと最初からです。こんなに格好良い人を見たのは、生まれて初めてだったから」

 オデットがはにかんでキースを見上げると、彼は苦笑して頷いた。

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