鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 その姿を目にしなくても、手を重ねれば彼の熱を感じて大きな安心を感じることが出来た。

(キースは強く、権力も武力も……何もかもを、その手にしている人。私の話を聞いてから、すぐに立ち位置を正確に把握し理解したからこそ、あの時に彼は言ったんだ。風向きは……私を取り巻く状況は。いつか、変わるかも知れないと)

「キースに守られて、確かに私は今安全です。けど、私は自分の安全のために貴方を好きになった訳じゃないのに。今のままでは、きっと……また、貴方の苦しさも辛さも……何も知らずに理解していない癖に、キースが持つものが羨ましくて堪らない人に、色んな邪推を受けるでしょう」

 キースは誰に嫌味を言われたとて、飄々として傷ついていないように見えた。だが、嫌な言葉をあれほどにまで言われて、傷つかない人間なんて居ない。

 もしくは、心が傷付きすぎて、痛みが酷過ぎて、それすらも麻痺をしてしまっているのかも知れない。

(彼の弱点には、絶対なりたくない。月姫なんて誰かに良いように呼ばれても、本当の王族のお姫様じゃない。私を守ってくれるのは、キース一人だけだもの)

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