鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない

 祈るような気持ちで、鉄巨人を連れてオデットが戻れば、黒い大蛇は何かまた濃くなっていた黒いモヤに包まれていた。

「セドリック。私を、あの大蛇の上空にまで連れて行って」

 セドリックはオデットの言葉に驚いたのか、一度だけ振り返った。とても慎重な性格の彼だから、危険な状態の中でそれをする理由がわからなかったのだろう。

「大丈夫。あの鉄巨人は、この宝石を追い掛けているから。だから、あの大蛇の上にこれを撒くの……自分を縛っていたものとは言え、ずっと一緒だったから。嫌なものだったとは言え、少し複雑な気持ちにはなるけど。もう、縛るものなど何も要らないわ。私は、本当の意味で自由になるのよ」


◇◆◇


 何か不気味な術を完成させようとしていた黒い大蛇に上空から振り撒かれた幾つもの宝石は、夕暮れの光を弾いて落ちていった。

 鉄巨人は、それを追い掛ける。

 あれを持つものを連れ帰るようにと命を下され、それに従うしかない哀れな存在だった。可哀想なそれを利用したことを、誰かに詰られようがそれでも構わなかった。

 オデットにとっては、キースが一番大事で守るべきものだったから。

< 203 / 272 >

この作品をシェア

pagetop