鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
(そうよ……キースは不思議がって居たじゃない。私を奪われ国に所属する飛行船を拿捕されたのに、何も言って来ないからおかしいと……ずっと、こうして用意を重ねて居たから……)

 ゾッとした寒気が、オデットの背中を駆け抜けた。月の女神に愛されただけなのにそんな自分に対する、気持ち悪い程の執着心を感じたからだ。

「……砦全体を、呪った? 嘘でしょう? そんなこと……出来るの……」

 あの大きな砦全体にそんなことが出来るのかと呆然として呟いたオデットに、カイルはどこか遠くを見るようにして言葉を返した。

「真っ白な石造りのご立派な砦が、どこか……下方から黒ずんでいくように見えないか。やっと救われたと思っていたお前にとって、大事な人間達がじわじわと死ぬ恐怖を味わえる。とても、楽しいじゃないか。なかなか出来る事ではない。羨ましいことだ。絶望の中に居る頃に迎えに行ってやるよ」

 怖気が立つような事を言い残したカイルは、あっという間に姿を消した。パチパチと目を瞬いても、暗い夜が見えるだけ。

(そんな……)

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