鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 そういえば、今夜は満月だったとオデットは思い直した。だからと言って、非力な自分には何も出来ずに、大事な人たちが死んでいくのを見守るしかない状況は変わらない。

 オデットが、月を見てこれまで生きて来た中でしなかった事をしようと思ったのは、ただの偶然の閃きだ。先ほど、鉄巨人を利用して大蛇を取り除こうと思った時と同様に。

 愛されているとされ、月魔法を使うことの出来る理由であるかの人に、話し掛けようなんてそれまで思ったこともなかった。愛されたくなんてなかったと、ずっと思って来たからだ。

(月の女神様……お願い。私は、皆を救う力が欲しい……お願い。どうか。あの呪いを解く力をください)

 オデットはこれまで愛してくれているとされている月の女神をずっと嫌ってきた。憎んで来たと言っても過言ではないかもしれない。

 月魔法を使えるという稀有な能力がなければ、誰かに利用されることもなかった。利用価値のある存在だと、自由を奪われることもなかった。普通の女の子として、普通の幸せのある人生を送ることも出来ていたかもしれなかった。

 けれど、キースは自らを過酷な立場へと追いやったヴェリエフェンディの国王を、オデットの鎖を外すために許したのだ。彼だって、オデットがあった立場と似ていた。自分は望まぬ恩恵を受け、憎まれて苦しんでいた一人だった。

 だから、オデットは今まで拘ってきた何もかもを捨てて、女神に縋った。

(お願い。キースを救いたい。彼の大事な人を、皆を救いたい……お願い……)

 強い白い光に身体を包まれたと思ったのは、ほんの一瞬のことだった。

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