鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 月魔法を使えるという事が、自分の価値だと思っていた頃なら、それは辛かったかもしれない。

(何でも持っているキースは、私を利用してどうこうしようなんて……かけらも思っていない。ただ、私のやりたいようにすれば良いと仕事もさせてくれただけ。それを、信じられる。共に過ごす中で、彼がいつもそう言ってくれて、態度でも示し続けてくれたから)

「構いません。どうか、お願いします」

(それでは望みを、我が愛し子)

 楽しげな言葉の最後は一変、彼女が誰かを思い起こさせるような厳かな口調。

「どうか……私の大事な人たちを、助けて欲しい。お願い」

(叶えましょう)

 そうして、降り注ぐような圧倒的な光にまた包まれた。オデットの身体から放たれた光だったのかもしれない。

 信じられない程の光量に眩んでしまったオデットの目が、慣れて元通りに見えるようになるまでにある程度の時間がかかった。

(……砦が、黒く……なくなってる? 良かった! ありがとうございます)

 先ほど見る間に黒に侵されていた砦は、今では元通りの夜でもわかるような白い石造りの砦に戻っている。

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