鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない

31 バルコニー

 火照った肌に、冷たい外気に気持ち良い。初夏の夜は、季節的にまだ涼しい。

 キースに与えられた家の二階部分には、広いバルコニーが有った。

 周辺の家とは距離があるし柵にまで近寄らないとそうそう階下に居る誰かに見られることもないとは思うが、心許ない感覚にオデットは身体を震わせた。

「もし……誰かに、見られたらどうするんですか?」

 全裸で外に出るという普段では考えられないはしたない行為に怯えて胸を押さえたまま、こそこそと小声で話すオデットに、ここに来る提案をしたキースはにやっと悪い笑みを浮かべた。

「そう思うと、なんだか興奮しないか? むしろ、誰かが見てないと、そういう行為が出来ないという特殊な性癖を持つ人も、数は少ないが世間の中には存在するんだ。オデットも、自分が知らないだけで、もしかしたらそうかもな」

「私は……! 違います! 別に、見られていなくても……」

 慌てて彼の言葉を否定しようとしたオデットは、静かに指を立てて唇に当てたキースを見て、そういえばここは外だったと両手で口塞いだ。

「はは……まあ、星の数ほど居る人達の中には、そういう人も中には居るってことだ。さっきセドリックに言って、竜舎に居る竜には今夜の夜間飛行は禁じておいた。大きな権力を持っているって、悪いことばかりでもないよな。こうして、自分の思い通りにすることも可能だからな」

「キース……」

 横暴と言える命令をしたことに呆れ顔をしたオデットに、キースは素知らぬ表情で肩を竦めた。

「たった一晩だ。今夜くらい、別に良いだろ。竜騎士団長なんていう、想像を絶する程にめんどくさい役職にあるんだから、たまには強権を発動させてもバチは当たらない。後で竜舎に、あいつらが喜びそうな果物でも差し入れとくわ」

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