鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「なんだよ。悪いか。一応部下の模範とならねばと思っている面倒くさい立場の俺だって、可愛い恋人に男の影が見えれば、妬く時もあるだろう」

「いいえ。キースがそういう事を言うのが意外だっただけで……ごめんなさい。可愛かっただけです」

 クスクスと笑い声を夜空に響かせれば、見上げれば雲が分厚い曇りだった。今は月魔法が使えなくて、月光を浴びることに何の意味もなくなってしまった。それをなくしたいと思っていたオデットも、やはりどこか寂しくなった。

「月が、見えないですね」

「ああ。今夜は、曇ってるな」

 キースはただ、自分が後ろから抱きしめているオデットの言葉を受けてバルコニーから見える風景を見ての感想を言っただけだ。

 それを事情を知らない誰かが聞けば、おかしな事だとそう思うかもしれない。

 月魔法を持つことによって普通の庶民の人生を生きられなくなってしまったオデットにとっては、その能力について何も思わないなんでもない彼の反応が、涙が出るくらいに嬉しいことだった。


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