鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「なにやら……経営者が世界でも有数の裕福な商人と言う話だが。俺は、その人本人の事は良くは知らない。一見では決して入れぬ紹介予約制だし、どうやら店側が利用する客を選んでいるようだ。まあ……俺としては、そういう情報はどうでも良くて。可愛い恋人に美しい宿を喜んで貰って、久しぶりの長い休みを快適に過ごせればそれで良い」

 これから向かう宿の説明に時折頷いていたオデットは、あるひとつの単語に引っかかった。

「……紹介制? ということは、キースも誰かに紹介して貰ったんですか?」

 キースがあの宿に予約を取り自分たちがこれから宿泊客になれるのなら、彼をあの宿に紹介した誰かが居るはずだとオデットは思った。

「あー……まあ、この前にめんどくさいお願いをして来た、この国のとある権力者が、俺のご機嫌を取るべく用意した何個かの貢ぎ物の内のひとつだ。あいつは俺が喜びそうな事を、どうやって調べているのか知らないが、折々に的確な物を贈ってくるんだよなー……誰か、近くに諜報員でも居んのかな」

 キースは少し嫌な顔をしたままで、不思議そうに首を捻った。

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