鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 悪い予感は当たり、もしかしたらと思った前例のない作戦が敵の意表を突き功を奏し、それで竜騎士団全体が助かったことが幾度もある。

 だから、もしかしたら。自分はどの神かはわからないが、天に住まうという神からの天啓を受け取っているのかもしれないと、そう思ってしまうこともあった。

 確たる天啓と呼ぶにはあまりに頼りなく、誰かからそれは気のせいと言われれば、確かにその通りだと頷ける程度の儚い予感でしかないが。

 そういうキースだからこそ「女神に愛されている」という、信じ難い逸話を持つ女の子の存在を、何の抵抗もなくすんなりと受け入れることが出来たのだ。

「……助けて! 逃げたい!」

 そう叫んだ彼女に、何の力も持たずにいた幼い時の自分が重なったのは、確かだ。

 逃げたかった。だが、当時誰もそうさせてはくれなかった。だから、思ったのだ。彼女を今、自分が救いたいと。

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