鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「まあ……俺がこうして、居る間は良い。だが、俺も戦闘職にあるので、いつ居なくなるかもしれない。悲しいことだが、人は死ぬ。そして、オデットの持っているその能力がなくならない限りは、君の身柄に関する権力者たちの奪い合いは死ぬまで続くだろう」

「……それは、理解しています」

 オデットはキースの言葉を聞いて、手を強く握り締めた。

 今は強い力を持つキースに守られていても、何も出来ない自分が変わらなければ一人になれば同じことだ。

 自分の今居る位置を思い出し顔を歪めたオデットに、キースはゆっくりと語りかけた。

「だが、良いか……風向きは、常に一定じゃない。どんなに劣勢だったり絶体絶命の窮地に遭っても、必ずそれをひっくり返す糸口は、どこかには潜んでいる。生きている間は、自分の進みたいと思う道を諦めない方が良い」

 キースのきらめく紫色の瞳は、目の前のオデットをまっすぐに見据え怖いくらいに真剣だった。

 きっと。それは、彼が自分自身に言い聞かせて来た言葉なのかもしれなかった。

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