鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「もし、今の自分が抜け出したい状況に居ると思うなら、力を溜めろ。自分の武器を作り、腕を磨け。注意深く、周囲の状況を注視しろ。そうしたら、思わぬ追い風が吹くこともある」

「キース様……」

「オデットが諦めたら、君の人生は何もかもが終わってしまう。逆転の機会を、自ら潰すな。君はあの草原を必死で走り逃げたいと願い、叶った先、今ここに居る。これから、どうするか。どうなっていきたいのか。他でもない君自身が、自分で選び取るんだ」



◇◆◇



(今夜は、満月だった)

 夕食と入浴を済ませたオデットはキースが用意してくれていた部屋へと入り、二階の窓を開けて外へと両手を伸ばした。

 白い月光が剥き出しになっている肌から吸収され、月の魔力が身体の隅々にまで行き渡るもう慣れてしまったいつもの感覚だった。

 三日前に大きな飛行船に乗りガヴェアの王都を出発し、本日ヴェリエフェンディでも有数の資産家を治療した。そうして、その帰りにオデットの現在の所有者である人があの草原を散歩しようと言い出したのだ。

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