鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 立て続けに起きた出来事へのあまりの驚きに声も出ないオデットに対して、キースはほっとした様子で大きく息をついた。

「あー……悪い。あのままでは怪我をするかと思って……乱暴だったな。すまない」

「……ごめんなさい」

 いつも優しい彼ほどの人を怒らせるようなことをしてしまったのかもしれないと思うと、胸が締め付けられて痛くなった。

 キースはそんな様子のオデットを見て、眉を寄せ困った表情になった。

「悪い。だが、火にかけた鍋を支えるときはこの部分を触ると火傷をする。この取っ手の部分を、持つようにするんだ。オデットが何も知らないことは、俺も知っている。もっと、気をつけてあげれば良かった。不注意だった。さっきは怒鳴って悪かった。どうか……泣かないでくれ」

 彼はそう言って、オデットは自分が涙を流していた事に気がついた。

(私。何も……出来ないのに……助けてもらって被害者みたいに泣いて、情けない)

 感極まったオデットは、身を翻してすぐ傍にあった勝手口から家を飛び出した。キースの呼び止める声が聞こえたが、振り返りたくはなかった。



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