鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 あんなにどう足掻いても逃げられないと嘆いていた鉄巨人を、その場に置き去りにして。



◇◆◇



「あの気持ち悪い機械で出来た巨人か……すげえな。あれは……俺も、初めて見た」

 呆然としていたオデットを後ろから抱きかかえている彼がまた声を出したのは、あっという間にさっきの広大な草原が見えなくなってから。走っても走っても終わらないと思っていたあの緑の海がもう、遠い。

 竜の駆ける速度は、世界の中に生息する翼を持つ獣の内でも最速だ。なんでも高速飛行という、常人には耐えられない速度で進むことも出来るらしい。彼らにとって敵国とも言えるガヴェアに生まれ育ったオデットには、竜騎士だけが何故その速度を耐えることが出来るのかは知らない。

「あ……あの」

 振り向いたオデットは、彼の顔を見てすぐに言葉もなく絶句した。

「その格好からすると、どこかの……お姫様か? もしかして、誰かに命を狙われている? ……ん? さっき、少し声は出ていたよな? 大丈夫か? 痛むところはあるのか?」

 まるで彼は畳み掛けるように、呆けている様子のオデットに質問を繰り返した。

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