鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない

09 魔法使い

 彼らしくない感情的な怒りの表情に呆れた顔になったアイザックに訳を追って説明されて宥められて、キースは自分の勘違いに気がついてくれたようだった。

 どんな事が起ころうと泰然としているようで、いつも落ち着き払ったキースにしてはとても珍しく、どこか恥ずかしそうな表情を見せたのでオデットはそんな彼が急に身近な存在に思えたのだ。

(キース様でも勘違いして、怒っちゃうことがあるんだ……)

 何もかもを手にしている完璧な存在なようで、彼だって普通の一人の人間だと思えてオデットにはそれが嬉しかった。ひとつひとつ階段を登るように、近寄り難いキースに近寄って行けているような気がしたから。

 短い仕事の話を終えたアイザックは、自分の役目は終えたとばかりにさっさと帰って行った。

「本当に、悪かった。すっかり誤解をして、怖い声を出した。驚いただろう」

「いいえ。あの部分だけ耳にしていれば、勘違いされたのも無理もないと思います。突然……あんな話、驚かれましたよね」

 いつもは何にも動じることのない様子のキースは謝ってくれたものの、今はどこか所在なさげだ。

「いや……本当に、すまない。俺も、少しどうかしていた。まだ時間もそう遅くないし、今日は天気も良い。良ければ、外で街歩きでもしてみないか?」

「はい! ありがとうございます」

 元気良く返事を返したオデットに、キースは苦笑して頷いた。

 彼に救われた形となったオデットはこの国に来てから、二週間ほどの間、家に閉じ篭りっぱなしになっていた。

 保護しているキース自身もそうしようとしてそうした訳ではないのだろうが、彼にはどうしても決裁しなければいけない書類などを持ち込んで処理することもあったし、単純に帰りの時間が遅くて何処かに行こうという話にならないこともあった。

(嬉しい! 何の目的もないお買い物なんて、産まれて初めてかもしれない……)

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