鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない

10 籠

 久しぶりにその人の気配を感じただけで、身が竦みゾッと恐怖した。

「オデット……あのまま、逃げられると思ったのか? 可哀想に、叶わないというのに儚い希望だけを持ったんだな」

 指でするりと頬に触られ、ただただ不快な感触だけがその場所に残った。

 オデットは、無表情のまま息を止め、いつも通りに自分の心を守るために心を殺す。

(私に、触らないで……気持ち悪い。ついさっきまで、あんなに幸せだったのに……あんなに)

 優しいキースの隣に居て彼の言葉に耳を傾けていたのは、ほんの少しだけ前の出来事だった。彼の熱も感じる程に、すぐ傍にいたのに。

「あの……雷を操る竜騎士のせいで、大事な大事な鉄巨人を一匹失ったよ。まあ、あれはいくらでも代わりが利く。金を払って喚び出せば、良いか。この世界は金さえあれば、何でも叶う。それを持たないお前は、死ぬまでずっと誰かに囚われるんだよ。金の卵を産む鳥として、もう二度と逃げることも許されずに、籠の中で一生を終えるんだ」

 脅しつけるような言葉を残し、その人はオデットが居る部屋を出て行った。不快な時間は、すぐに終わった。

 ここは部屋を出られたとしても、どうしようもない飛行船の中だというのに。

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