鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 オデットは、今までずっと心の中ではこんな立場から逃げ出したいと願いながらも、そんなことは不可能だとどこかで諦め決めつけていた。

 生まれ落ちたその時から状況は絶望的。決して外せない肉体に埋もれた鎖。要らないのに失えない能力。どんなに嫌だと泣いたところで、利用されるだけの自分。

 そこから抜け出したいと、何かを変えたいと、必死で死に物狂いで何かを掴み取ろうとしたかと言うとそれは否だった。もし何かをしていたら、一滴の水が硬い岩を削っていくように、何かを続ければ状況が変わっていく事だって出来たかもしれないというのに。

「思わぬ追い風が吹く事だってある……」

 いきなり船の中に鳴り響くけたたましいアラーム音に、オデットは派手な装飾が飾り付けられた椅子から立ち上がった。

 そうして、ここに連れて来られた時に、あの人の前に出るのならと無理矢理着せられていた重いドレスを脱ぎ捨てた。高価な宝石の散りばめられたドレスは、ドサリと音を立てて床に落ちた。

 ここは、空の上だ。だが、このアラーム音が鳴っているということは、船中で何らかの異常事態が起きているという証拠だった。

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