鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
(もう何もしないままで、諦めたくない。もしかしたら、またすぐに連れ戻されるのかも。この部屋から出て逃げ出したところで、空の上から脱出方法なんてないのかも。でも、これが人生で最後のチャンスになるのかもしれない。何もせず試してもいないのに、きっと自分には無理だと決めつけて、何もしないなんて……絶対に、嫌)

 オデットは、薄いスリップドレスを纏っただけの下着姿のままで、重い扉を開き勢い良く飛び出した。意外にも鍵は掛かっていなかった。この船の中、逃げ出せるなんて思ってもいなかったのかもしれない。

 広い廊下を見渡せば見張りはいなくて、何か侵入者に全員で応戦してる戦闘の音がしていた。

 あの人の所有するこの飛行船は、確かに巨大だ。だが、それほど複雑な造りでもない。迷わせる事を目的としている訳でもないから廊下は真っ直ぐだし、異常が起きているという箇所は、オデットにもすぐにわかった。

 大きな廊下を曲がった、その奥に見覚えのある彼が居たからだ。

「キース様!」

 オデットに呼ばれて、キースは一度だけ彼女の方向に目を向け、自分に向かってくる敵を蹴散らしていた。

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