鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 非常に価値のある存在であるオデットの護衛兼見張りたちは、金で雇われる傭兵の精鋭の中から高給で雇われているはずだ。だというのに、キースは易々と幾人もの敵を軽く倒した上で、血糊で使い物にならなくなった剣を奪い取り替える余裕まで見せていた。

「オデット! 早く、来い」

 とりあえず、その場に居た者たちの処理が終わったのか一人だけ立っている彼は、立ち尽くしていたオデットに声を掛けた。

「キース様! どうして……どうしてここが?」

 あの異常を示すアラーム音を聞いた時も、オデットはキースが来てくれているかもなどという考えは頭の中を掠めもしなかった。

 だが、彼は現にここに居る。慌てて駆け寄ったオデットに、キースは目に見えて嫌な顔をした。

「あー……その刺激的な姿は、いけない。これを着ろ」

 キースは自分の上着を脱いで、まだ熱の残るそれを彼女に羽織らせた。

 いつもは優しいキースは戦闘で気が立っているからか、通常の彼とは全く違う様子だった。鋭いその紫の目には、驚くほどの怒りの炎を秘め口調も想像もしなかった程に乱暴だった。

「キース様……」

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