鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「ありがとうございます。すみません。俺、少し血が止まる程度なのかと……」

「とんでもないです。私を助けに来てくれて、本当にありがとうございます……あのこれは、内緒なんですけど……貴方の身体の悪いところ、全部治ってますよ」

 オデットが小声でそう言うと、彼は大きく目を見開いて身体の動きを止めた。

「それほどまでに効果があり、これほど早く治癒する魔法など……今までに見たことも聞いたことも、ない。もしかして、高名な聖女の方でしょうか……?」

 オデットの名前を尋ねるように屈んだ彼が顔を寄せた時、背後からキースの不機嫌な声がした。

「オデット、帰ろう。エディ。この子……癒しの能力は、他言無用だ。良いな」

「はい。団長。墓場まで持って行きます」

 真面目過ぎる顔をして頷いたエディの胸を、キースが小突いた。

「お前は、いつも一言余計なんだよ。セドリックの鞍を、片付けといてくれ」

「了解しました。団長」

 きびきびとしたエディの声に軽く頷いて、キースはオデットに手を差し出した。

「もう疲れただろう。家に、帰ろう。アイザックに、この後のとりあえずの事は任せた」

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