鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
「あっ……はい。すみません。失礼します」

 上司の前だからか背筋を伸ばして姿勢を正しているエディに、オデットは軽く頭を下げてキースの手を取った。

(温かい……帰って来れたんだ……)

 たった一時だとしても離れて、もう帰れないと思っていた彼の元に帰れることが出来て心の中は花開くような歓喜に満ちた。

「……そのままセドリックに乗って帰れれば良かったんだが、あいつに乗って帰ると君と一度離れることになる」

 キースはオデットの手を繋いだままで、アイザックが用意していたと思わしき馬車に乗り込みながら言った。彼の言葉の意味をすぐには飲み込めずに、オデットは目を瞬いた。

(えっと……離れることになるから。だから、やめたって事は……私と離れたくないって……そう言ってくれたのかもしれなくて……)

 オデットはそう思い至り、顔が熱くなった。

 責任感が強く優しい彼は、不安定な立場にあるオデットの前で常に庇護者たる立場を崩すことはなかった。もし、自分が何かを希望するような事があれば、庇護される側のオデットは断れる立場にないからと思っていたのかもしれない。

「……ありがとうございます」

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