だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 目が覚めたとき、珍しく久弥さんもベッドにいて、まずはそのことに驚く。忙しい彼はたいてい私より早く起きるのに、久弥さんの寝顔を見られるなんて貴重だ。

 ふっと笑みをこぼしそうになり、置かれた状況を思い出す。ここは久弥さんのマンションではなくホテルだ。おまけに自分はなにも身に纏っていない。

 一気に昨晩の記憶がよみがえり、ベッドの中に潜り込んだ。穴があったら入りたいって、きっとこんな気持ちなんだと思う。

 体には久弥さんにしっかり愛された余韻が残っていて、言い知れない羞恥心で呼吸困難を起こしそうだった。

 その、私、本当に久弥さんと……。

 思い出したいような、思い出したくないような複雑さを抱えつつ、ひとまずなにか着ようと体を起こそうとした。

「瑠衣」

 ところが不意に名前を呼ばれ、心臓が口から飛び出しそうになる。見ると久弥さんが寝ぼけ眼でこちらを見つめていた。彼の寝起き姿を見るのが新鮮で、どぎまぎしつつもどう反応していいのかわからない。

 そのとき腕を引かれ、あっさりと彼の腕の中に閉じ込められた。久弥さんはなにも言わず、どうしたのかと思っていたら、ややあって規則正しい寝息が聞こえてくる。珍しい彼の姿に小さく笑った。

 久弥さん、寝ぼけていたのかな?

 そうだとして、無意識でも名前を呼んでこうして求めてもらえたのが嬉しい。彼の厚い胸板に顔をうずめ、密着する。

 大丈夫。この先、私たちの関係がどうなっても、私が今感じている幸せは本物だ。この選択に後悔などない。

 じっとしていたらつられて私まで眠くなってきて、私は久弥さんにくっついてもう少しだけと目を閉じた。
< 148 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop