だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「ごめんね。私の中で町原くんに対する気持ちは、別れたときに全部なくなったの。……いいお医者さんになってね。努力家の町原くんなら、きっとなれるよ。応援しているから」

 わざと笑顔を作って告げた。けれどこれは本心だ。

 久弥さんの言う通り、別れたときも彼は必死に謝ってくれた。けれど守ったり庇ってはくれなかった。私も彼との関係をそこまでして続けたいとは思えなかった。それが答えだ。

 パーティーで再会しなければ、彼は私にわざわざ会おうとはしなかっただろう。

 町原くんは顔を歪めたままその場を去っていく。そのうしろ姿をなんの感情もなく見つめた。

「瑠衣」

 名前を呼ばれ、我に返る。久弥さんとは朝に離婚届を突きつけて以来だ。彼から思いっきり目線をはずし、わざとらしく尋ねる。

「あ、もう離婚届は記入していただけましたか?」

「書く気はないし、俺は瑠衣と別れる気はない」

 朝もそうだった。きっぱりと言い切る彼の口調とは対照的に、私の心は乱れっぱなしだ。

「どうしてですか? ……光子さんになにか言われたんです?」

「祖母は関係ない」

 間髪を入れない返事に、ますます困惑する。久弥さんの気持ちがわからない。

「そんなに瑠衣は俺と別れたいのか?」

 彼の質問に思わず目を伏せた。

 だってそういう契約だったでしょ。私の気持ちの問題じゃない。なぜなら私は……。
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