だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「久弥さんがなにもないわけありません。こんな素敵な旦那さま、他にはいません」

 声が震えて涙が頬を滑るが、自然と笑顔になった。

 目尻にそっと彼の指が添わされ、目が合うと緩やかに顔を近づけられる。ごく自然に目を閉じて、彼の口づけを受け入れた。

「彼に偉そうなことを言ったが……俺はまだ間に合いそうか?」

 唇が離れ、どこかぎこちない彼の物言いに私は小さく首を縦に振った。彼の気持ちも痛いほどわかる。私も同じだったから。

『ただ……そうだな、感情をさらけ出すのは苦手かもしれない』

『私も、です。困らせたり嫌われたくなくて』

 気持ちを自覚しても伝えられなかった。

「私は……これからも久弥さんの隣にいてもいいですか?」

 おそるおそる尋ね、すぐさま言い直す。

「隣に……いたいです。できればずっと」

 彼の反応をうかがう前に、唇を重ねられた。目を閉じて、長い口づけを受け入れる。

「それを望んでいるのは俺だよ。瑠衣は俺の妻だ」

 頬に手を添えられたまままっすぐに告げられ、涙が滲みそうだ。だからあえて冗談交じりに返す。

「契約はどうします?」

「破棄する」

 即座に返事があり、目を丸くしたら、久弥さんが優しく微笑んだ。

「そのうえでもう一度、俺と契約してほしい。瑠衣を誰よりも大切にして、愛したいんだ。今度は無期限で」

 目の端に溜まった涙はごまかせそうもない。気の利いた答えができずに頷くと、再び彼の腕の中に閉じ込められた。

「帰ろう、瑠衣」

「はい」

 満たされた気持ちで自然と笑顔になる。繋がれた手は誰よりも温かかった。
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