だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 内心で反省していると、久弥さんが私の髪先に指を絡ませてきた。

 短くなったので地肌にも彼の指が触れてびくりと肩を震わせ、慌てて隣を見る。

「長くてまっすぐな髪が好なんじゃない。瑠衣の髪が綺麗だと思って触れたくなったんだ」

 そっと指全体で髪を梳かれ、心臓が跳ねる。

「この髪型もよく似合っている」

「……ありがとうございます。また伸ばします」

 静かに宣言すると、久弥さんはふっと笑みをこぼした。

「俺のために?」

 おどけた言い方に虚を衝かれたが、私は微笑む。

「はい。久弥さんが好きだと言ってくれるのなら」

 現金なのはわかっている。誰かの反応で、自分のなにかを決めるなんて今までになかった。でも久弥さんのためならまったく苦痛だと思わない。

 人を好きになるって……こういうことなのかな。

 ふと髪に指を通していた手が頬に移動して、久弥さんがこちらに身を乗り出してきた。彼の整った顔がすぐ目の前に迫り、それを堪能する間もなく唇が重ねられる。強引な体勢と口づけに目を瞬かせていると、緩やかに唇が離れた。

「ところで……俺が長い髪が好きだとか、瑠衣は誰になにを聞いたんだ?」

 鋭い質問に、目を見開いて硬直する。まさかそこを突かれるとは思わなかった。けれど隠していてもしょうがない。

 久弥さんがそっと姿勢を戻したので、私はぽつぽつと有沢さんが家にやってきた件を説明する。久弥さんは余計な口を挟まずに私の話を静かに聞いていた。
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