だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 なんとなく重い空気のままマンションに戻ってきたが、部屋に入り、不意に私の思考は不切り替わる。

「久弥さん、夕飯召し上がりました?」

 唐突な私の勢いに圧された面持ちの久弥さんと目が合う。

「いや、まだだが」

 その答えはある程度予想していた。一応、作り置きしていた料理についてはメモに残しておいたが、さっきの話からすると彼は食べずに私の実家にやってきたらしい。

「すぐに準備しますね。気が利かなくてすみません」

 キッチンに歩を進め、まずは手を洗っていると突然背後から久弥さんに抱きしめられた。

「瑠衣がここにいてくれて嬉しいんだ」

 驚きで声をあげる前に久弥さんが安堵めいた口調で呟く。

「あ、あの」

 背中越しに伝わる温もりに、身の振り方を迷う。早くなにも食べていない久弥さんのために支度しないと。でもこの抱擁をしばらく受け入れたい自分もいる。

 葛藤していると、さりげなく頬に唇を寄せられた。

「食べなくていいから瑠衣とこうしていたい……と言いたいところだが、それはそれで瑠衣が気にしそうだな。でも帰ってきて早々無理しなくてもいいんだぞ」

「無理じゃないです。久弥さんが嫌ではなければ召し上がってほしいです」

 正直に想いを伝えると、回されていた腕の力が緩んだ。

「もらう。ありがとう、奥さん」

 今度は額と額を重ねられ、久弥さんは着替えるために一度自室へ向かった。逸る気持ちを抑え、手を動かす。
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