だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
『つらかったわね、家庭環境でこんなふうにずっと好き勝手言われて』

 労るような声色があまりにも予想外で、光子さんの表情は切なそうなものだった。彼女の反応に驚いたのは私だけではない。

『会長』

『瑠衣さんは素晴らしい女性よ。さっきから黙って聞いていたらあなた、なに? わざわざ人を悪く言うためにここにいらしたの?』

 有沢さんが口を挟もうとしたが、打って変わって冷たい声で光子さんははねのけた。さすがに有沢さんが慌てた様子になる。

『違います、私は会長や久弥さんのために』

『なら余計なお世話だわ。これ以上、瑠衣さんを愚弄する真似は許しません。彼女への侮辱は、私や孫に対してのものと受け取ります。お引き取りを』

『そんな』

 とりつく島がない様子の光子さんに有沢さんは呆然としている。

『それから、今回の件はあなたのおばあさまにも報告しておくわ。友人の孫だからってあまりにも失礼な態度だって』

 普段の温厚な光子さんからは想像もできない冷然さだった。有沢さんはまだなにか言いたげな面持ちだが、唇を噛みしめ、私の横をすり抜けてさっさと病室をあとにした。

『本当に失礼な人ね』

 唇を尖らせる光子さんの方をおそるおそる向くと、彼女は優しく笑った。
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