だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「父は私が赤ちゃんの頃に出ていったらしくて……。それから母にはシングルマザーで、すごく苦労をかけたんです」

 父の話は、亡くなった祖母から聞いた。母は両親の手を借りながら幼い私を育てていたが、やがて祖父母も亡くなり、母は体が弱いのにもかかわらず、必死に私を育てた。だから――

「お母さんは、君がいたから頑張れたんだろうな」

 それまで黙って聞いていた久弥さんがふと口を開く。思わず運転している彼を見つめた。彼の視線は前を向いたままで、私も前に向き直る。

 ぎゅっと握りこぶしを作って、込み上げてきそうになるものを我慢する。私のせいだと自分を責めていたのを、そんなふうに言ってもらえるとは思ってもみなかった。

 そこから祈る気持ちで病院までの道のりを行き、病院の乗降口に車が停まったので慌ててシートベルトを外した。久弥さんにお礼を告げて、夜間休日専用のドアから中に駆け込んだ。看護師さんに聞いて、母が運び込まれたという処置室前に急ぐ。

「村上さん」

「瑠衣ちゃん」

 付き添ってくれていた村上さんが私を見てわずかに安堵めいた表情を見せた。

「すみません。母は?」

「大丈夫。すぐにお医者さまが対応してくださってね。お医者さまが看護師さんから説明があるそうだから、聞いてもらえる?」

「はい」

 そういった説明は身内しか受けられない。ひとまず命に別状がないのならよかった。さらに付き添うと申し出る村上さんにもう大丈夫だと告げる。
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