だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 彼女にも家庭があるし、お子さんはまだ小学生だ。なにより明日からしばらく仕事ができない母の穴を埋めてもらわなくてはならない。

「あとは私ひとりで大丈夫ですから」

 明日朝一でお見舞いに来るという村上さんにお礼を言って手を振る。待合いの椅子に腰を下ろし、小さくうずくまり長く息を吐く。心臓はずっと早鐘を打ちっぱなしだ。

 静まり返った廊下に人の気配を感じ、私は勢いよく顔を上げた。その人物を視界に捉え、目を見開く。

「どう、して?」

 こちらに足早に近づいてきたのは久弥さんだった。なぜ彼がここにいるのか。てっきり帰ったとばかり思っていたのに。

「駐車場に車を停めてきた。お母さんの容態は?」

「あ、はい。なんとか無事みたいです」

 彼の顔を見たからか、体の力が抜けそうになる。

「そうか。ならよかった」

 安心した表情を見せる久弥さんに、私の気持ちも心なしか落ち着く。彼にそっと肩を支えられ、慌てて自分を奮い立たせる。

「倉本恵美さんのご家族の方ですか?」

 そこに医師らしき人が現れ、気持ちを切り替えて返事をする。

「はい。娘です。お世話になっています」

 頭を下げ、母の容体について説明を受ける。一時心肺停止状態になったが、なんとか持ち直したこと。でも次に同じ状況になったら命の保障はないと告げられる。

 わかっている、わかっていた。根本的治療は手術をするしかない。
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