だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 今、母は処置室で容体が急変しないか様子見の状態だが、間もなく病室に移動するらしく、同意書や入院手続きについて看護師さんから説明を受ける流れになった。その間も久弥さんは私に付き添ってくれていた。

 そして少しだけ面会が可能だと言われ、病室に運ばれた母に会いに行く。ちょうど相部屋に空きがなく、個室になったそうだ。

 時間も時間なので、小さくノックして部屋に入った。

「お母さん」

「瑠衣……心配かけてごめんね」

 か細く返ってきた声に、なんだか泣きそうになる。無事でよかったと胸を撫で下ろす反面、母を失うかもしれなかった怖さが複雑に絡み合って胸を締めつける。

「謝らないで。無事でよかった。とにかく今はゆっくり休んで」

 そんな自分の気持ちを悟られないよう、笑顔を貼りつけ極力明るく返す。

「そちらの方は?」

 けれど母の思わぬ指摘に気が動転する。さりげなく一緒にいた久弥さんの存在をどう説明すればいいのか。

「あ、あの彼は」

「はじめまして、こんなときに突然すみません。十河久弥です。瑠衣さんと結婚を前提にお付き合いしていまして、ご挨拶が遅くなってしまってすみません」

 淀みなく語る久弥さんに驚いたのは、母だけではなく私もだ。結婚どころか彼と付き合った覚えすらない。

「瑠衣、そうなの?」

 しかし母は、どういうわけか期待に満ちた眼差しを向けて尋ねてくる。その顔は、疑いや訝しがる様子などまったくない。
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