だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「純粋に君が心配だったって言って、信じてくれるのか?」

 嘘か、本当なのか。彼がどこまでを意図していて、なにが本心なのかはわからない。けれど……。

「今日、そばにいてくださって心強かったです。ありがとうございます」

 これだけは揺るぎない事実だ。そして母も私に大事な人がいると知って、ホッとした顔をしていた。

 頼れる身内がほぼいない私の身を、母は『私になにかあったらどうするの?』と冗談混じりに何度も案じていた。あれはきっと本気で不安に思っていたんだろう。

 嘘をつくのは嫌いだけれど苦手じゃない。

「わかりました。期間限定の結婚の申し出、お受けします」

 この判断が、この行動が、正しいのか正しくないのかもわからない。それでもどうして引き受けたのか。母のためなど自己犠牲めいたことは言わない。

 母に手術を受けてほしい。元気で安心した顔でいてほしい。全部私の願いを叶えるためだ。

 久弥さんは目を丸くした後、こちらに一歩近づき距離を縮めてくる。

「瑠衣」

 直接、名前を呼ばれるのは初めてで、少しだけ緊張する。彼は私の手を取り、柔らかく微笑んだ。

「ありがとう。感謝する」

 嬉しそうな久弥さんに勘違いしそうになる。彼は光子さんを安心させられるから喜んでいるんだ。そのための結婚相手を探していて、私自身を望んだわけじゃない。

 大きくて骨ばった手は、慣れない大人の男性のものだ。改めて意識すると、自分がとんでもないことを約束してしまった気がする。

 でも、私ひとりじゃないなら、彼も一緒なら、なんとかなるかもしれない。
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