だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「あの、改めて母の手術の件、ありがとうございます」

 それを吹き飛ばしたくて、運転する久弥さんに乾いた声で告げた。久弥さんはこちらを見ずに答える。

「気にしなくていい。君にはそれ以上の働きをしてもらうんだ」

 そうだ。彼の行動は見返りあってのものだ。もう後には引けない。名目上だけとはいえ引き受けたからには精いっぱい彼の妻を務めないと。

 母から、手術に踏み切れなかったのは、金銭面はもちろん、自分になにかあったら私がひとりになってしまうと案じていたからだと聞かされた。けれど、久弥さんがいるのなら、もうその必要はないと。

 最初は嘘をつくなんて間違っていると突っぱねたが、結婚がいかに親を、周りを安心させるものなのかと思い知った。

 だから久弥さんの気持ちも、行動も今なら多少は理解できる。でも――。

「光子さん、納得するでしょうか?」

 ぽつりと呟くと、すかさず隣から反応があった。

「納得?」

「私たちの結婚ですよ。あまりにも突然ですし」

 光子さんは私たちの出会いからを知っているから、下手に嘘はつけない。あれこれ質問される可能性は大いにある。

「それ以前に、あなたが結婚相手として私を選ぶこと自体に違和感を抱く可能性もあると思うのですが」

 光子さんが私を気に入っているのと、孫の結婚相手として受け入れられるかというのはまた別問題だ。

 久弥さんの好みは知らないが、初対面の印象から私みたいな人間に好意を寄せるとは考えにくい。
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