だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 きっと彼の周りには、仕事ができて、同じような思考の華やかな女性がたくさんいるはずだ。それこそ似た環境で育ってきた価値観の合う女性が……。

 そこでしまっていた過去の傷が鈍く痛み、慌てて振り払う。

「それはない」

 久弥さんのやけにきっぱりとした返事で我に返る。目をぱちくりとさせ、彼に目を遣った。

「君は十分に魅力的だ」

「初対面であんな態度だったのに?」

 すかさず言い返すと、久弥さんは途端に気まずそうな顔になった。

「あれは……」

 言い淀む彼に私はふっと笑みをこぼす。

「すみません。ちゃんと謝ってくれましたもんね」

 謝罪を受け入れたのだからいちいち掘り返すのはナンセンスだ。

 彼から反応がないのを不思議に思い、ふと笑みをひそめる。車は信号で停止していて、気づけば久弥さんはこちらに視線を送っていた。

 気に障ったのかと不安になったが、久弥さんは笑みをこぼした。

「作ったような笑顔より、そっちの方がよっぽどいい」

 そこで信号が変わり、彼は再び前を向いてアクセルを踏む。

 それはこちらのセリフだ。初めて会ったときは冷たくて無愛想で、私とは住む世界が違う人だと思っていたのに。

 彼のさりげない笑顔や優しさに胸をときめかせている。

 しっかりしないと。男の人に免疫がないから、いちいち反応してしまうだけだ。勘違いしちゃいけない。

 あんな不毛な思いはもう二度としないって決めている。だから割り切った彼との結婚を受け入れたんだ。
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