だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 病院の駐車場に車を停め、私は大きく息を吐いてからシートベルトをはずす。

「瑠衣」

 不意打ちで名前を呼ばれ心臓が跳ねた。

「俺がうまく説明するから瑠衣はいつも通りでいいんだ」

「はい」

 私から余計なことを言って墓穴を掘るくらいなら、ここは彼に任せよう。小さく頷くと久弥さんは苦笑する。

「それから、できれば俺も名前で呼んでもらえないか?」

 言われて気づいたが、心の中ではともかく、彼に対して直接名前で呼んだ覚えは一度もなかった。けれど改めて口にしようとしたら、なんとも言えない気恥ずかしさに包まれる。本人が目の前で待ち構えているようでなおさらだ。

「久、弥さん」

 観念して彼の名を呼ぶと、そっと頭を撫でられた。

「大丈夫、なにも心配しなくていい」

 久弥さんがそう言うと、胸を覆っていた不安が本当に消えていく気がした。


 光子さんは今日も朗らかな笑顔で迎え入れてくれた。前回同様、久弥さんは私を連れてきただけだと思っているらしく、ふたりで訪れたことに対して光子さんはなにも言わない。

 軽く近況をやりとりしたあと、彼が光子さんに対し、私と結婚を前提に付き合っていると切り出した。

「まぁ、ふたりともそうなの?」

 光子さんは大きな目をこれでもかというほど丸くし、感嘆の声を漏らす。

 この前、光子さんに言われて私と食事を共にしたのがきっかけで結婚を前提に交際を申し込んだと久弥さんは説明していく。
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