だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 彼のことはまだまったくと言っていいほど知らない。まだほんの少ししか会っていないし、一緒に過ごしていない。けれど、その中で見えてきた優しさは、本物だと感じたから。

「なにより、こうしておばあさまを大事にされているところが、とても素敵だと思います」

 自然と笑顔で話せた。ところが光子さんは驚いたような顔をしている。なにかまずい発言をしてしまったのかと内心で焦りそうになったが、彼女は顔をくしゃりと歪ませ笑った。

「ありがとう、瑠衣さん。そんなふうにこの子のよさを理解してくれて」

「い、いえ」

 光子さんは私の手をそっと取る。か細くて弱々しい彼女の手に、胸が軋んだ。

「さっきは、あんなふうに言っちゃったけれど、瑠衣さんさえよかったらできるだけ早く結婚を考えてあげて。私が生きているうちに結婚式の写真が見られるくらいには」

 光子さんの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「そんなことを言ったらいつまで経っても瑠衣は結婚を承諾しないだろ」

 光子さんの発言に戸惑っていると、隣から久弥さんがあきれたように口を挟んだ。ホッとして私も笑顔を作る。

「そうですよ。そんなに猶予を与えてくださるんですか?」

 私たちの切り返しに、泣きだしそうだった光子さんも微笑んだ。

「あらあら。のんびりさせちゃうかしら」

 続けて彼女は久弥さんに視線を送る。その表情はいささか険しい。

「久弥、しっかりと瑠衣さんと向き合って結婚してもらえるように頑張りなさい」

「どんな励まし方だ」

 真面目な光子さんに対し、久弥さんのあきれた言い方が対照的で思わず目を細める。
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