だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「瑠衣さん、久弥に対する不満や不安は全部私が聞くからいつでも言ってね」

 胸をとんっと叩く光子さんは、いつも以上に生き生きしていた。

 すると久弥さんがさりげなく私の肩を抱く。

「できればそれは、俺本人に言ってほしいな」

 至近距離で目が合い余裕たっぷりに微笑まれたが、逆に私は瞬きひとつできずに硬直した。頬が瞬時に熱くなり、心臓がバクバクと音を立てだす。

 不覚にも見惚れてしまった。これは全部、嘘なのに。

 触れられた肩から伝わる温もりや手の感触を意識しないよう躍起になる。

 改めて光子さんに挨拶をし、私たちは病院を後にした。

「あんな感じでよかったんでしょうか」

 車が動き出したタイミングで不安げに尋ねる。あまり光子さんに嘘はつきたくないと思い、結婚に関すること以外は極力素直に答えた。怪しまれた感じはしなかったが、どうなのだろう。

「上等だ。祖母も喜んでくれてなによりだ」

 久弥さんの回答に安堵したのも束の間、すぐに別の感情に襲われる。どう言い訳しても、私たちの仲を純粋に信じて喜んでいる光子さんを騙している事実は変わらない。

「このあと入籍や引っ越しについて話そう」

 久弥さんの提案に、罪悪感に染まりそうな気持ちを切り替える。さっき光子さんが、自分があまり長くないのではと弱気になったとき、久弥さんはわざと茶目っ気混じりにすかさず否定した。事実を相手に伝えるだけが正しさじゃない。
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