だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「早くそうなってもらえるよう努力するよ」

 さっきから演技だとわかっていても、彼の言葉や態度に振り回されっぱなしだ。

 エレベーターで二十八階まで上っていく間、このマンションの説明を久弥さんから簡単にされる。

 コンシェルジュと警備員が二十四時間待機し、防犯面の心配はなし。共有施設としてはスポーツジムやプール、ラウンジにシアタールームなどがあるそうだ。

 こんなところで生活している人が現実にいるのだと不思議な気持ちになる。賃貸料は一体いくらだろうかと疑問が浮かぶが、おそろしくて聞けない。おそらく桁外れの額なんだろうな。私のお給料の何か月分だろう。

 エレベーターを降りて案内された部屋の前で、久弥さんはカードキーでロックをはずす。ドアを開けると、広い玄関に出迎えられた。土間のスペースでこれだけあるのだから、中はどんな広さなのか。想像もつかないまま、「おじゃまします」と小さく告げて部屋に上がった。

 廊下を抜け通されたリビングには大きな窓があり、徐々に空が薄暗くなっていくのがじっくりと見渡せた。

 部屋はパーティーができそうなほどの面積があるのに対し、圧倒的に物が少ない。まったくといっていいほど生活感がなく、モデルルームさながらだ。

「ここにはおひとりで住んでいらっしゃるんですか?」

 わかってはいても聞かざるをえない。家族で住んでも十分すぎるほどの余裕も部屋数もある。
< 39 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop