だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「ああ。だから瑠衣が引っ越してきてもなんの問題もない」

 純粋に尋ねたのに、そういう切り返しがあるとは思ってもみなかった。

「やっぱり……そこまでしないといけませんよね?」

「当然だ。籍だけ入れて満足するとでも?」

 それは光子さんが? 久弥さんが?

 ひとまずテーブルに座るよう勧められ、おとなしく席に着く。彼はリビングにあるキャビネットから束になっている紙を取り出し、こちらに持ってきた。

「とりあえずこれに目を通してもらいたい」

 目の前に置かれたのは【婚前契約書】と書かれた書類だった。目を見開き、おずおずと手に取る。

「コーヒーでかまわないか?」

「あ、お気遣いなく」

 自分の分も淹れるからと久弥さんはキッチンに立つ。すらりと背が高く、スタイルも姿勢もよくて、くっきりとした目鼻立ちはモデルさながらだ。コーヒーの準備をするだけで絵になり、それでいて十分な貫禄がある。

 私は彼から視線を契約書に戻す。そこには婚姻期間についてや、この関係を第三者に口外しないことなどが記されていた。

「こ、こんなにいただけません」

 報酬についての項目を読んで思わず叫んだ。母の手術や入院費の他に別途私に支払われる額に目を剥く。生活費だって基本的に久弥さんが受け持つと書かれているのに。

 久弥さんはコーヒーを入れたカップを持ってこちらにやってきた。

「かまわない。あくまでもこの話は仕事として受け取ってほしいんだ」

 つまり雇われ妻というわけだ。
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