だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 しばらく葛藤して反論を収める。割り切った関係なら、これくらいドライな方がいいかもしれない。

 カップと共にミルクと砂糖を差し出され、お礼を告げたあと、ひとつずつ入れる。軽くスプーンで混ぜて、渦のできたコーヒーを見つめた。

「私、光子さんには長生きしてほしいと思っています」

「俺もだ」

 改めて告げたら素早い返事があった。

 離婚前提の契約結婚。私は、母が無事に手術を終え、ある程度のリハビリをして回復するまで。久弥さんは、光子さんの余命が尽きるまで。

 はっきりしない期間限定の結婚生活が早く終わってほしい気持ちと、少しでも長く続いてほしい思いが相反する。

「期間が不透明だとしてもお互いの目的が達成したら、速やかにこの婚姻関係は解消する。これは変わらない」

「ええ」

 ざっと一読し私はコーヒーのカップに口をつけた。そして目の前に座った久弥さんをまっすぐに見据える。

「私、子どもが欲しいんです」

 突然すぎる私の宣言に久弥さんは目を見張った。すぐに言葉足らずだと気づいて慌てて補足する。

「あ、もちろん久弥さんとじゃないですよ。いつか好きな人と結婚してって意味です」

 そこで言葉を区切って、笑顔を作った。

「だから、目的が達成できたら久弥さんとの結婚はさっさと終わらせますので、どうか安心してくださいね」

 それが言いたかった。彼からあえて念押しされなくてもわかっている。
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