だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 当然寝室は別ではあるが、その分、ルームシェアと呼ぶのかさえ危ういほど彼とは顔を合わせない。

 私より早く起きて出勤し、帰宅も遅い。せめてもと思い食事の準備を提案したが、余計な気を使わなくていいとあっさり却下された。他の家事も同様だ。

 好きに過ごせばいいという言葉は、裏返せば久弥さん自身もそうするという意味で、お互いに干渉しないのは契約結婚を成立させるのに大事なのかもしれない。

 でも、いいのかな。このままで……。

 なんとなく漠然とした不安が胸を覆う。

 離婚前提の期間限定の関係だからと言ってしまえばそれまでだが、母が倒れて大変なとき、久弥さんは私を支えてくれた。

 彼のためにできることってなにかある? でも久弥さんにとっては余計なお世話かもしれない。

 彼の仕事内容だってよくわかっていないのも事実だ。ただ会社経営者で、ましてや海外が相手なら定時内だけで対応しきれない部分もあるのだろう。この状況はどうしようもないのかもしれない。

 自分の立場を考えては、踏み出せずにあれこれ悩む。

 広すぎるマンションの使い勝手は徐々に掴めてきたが、私ひとりでは分不相応だ。

 悶々とした気持ちが膨らみ、ある時点で考えるのをやめた。きっと正解なんて出せない。なら正しくなくても自分の思うように行動しよう。改めて私は意を決した。

 午後十時前に玄関のドアが開く音がして、思いきって顔を出す。いつもは、帰宅した彼の邪魔をしてはいけないと寝室兼自室で過ごしているが、今日は違う。
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