だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「瑠衣は、魔法使いなのか?」

 着替えてリビングにやってきた久弥さんは、驚いた面持ちでテーブルの上を見つめている。

「まさか。ただ、私には久弥さんに関しては心強い味方がいますので」

 私はあえておどけて返した。それで久弥さんも合点がいったらしい。

 久弥さんの好みについて教えてくれたのは光子さんだ。彼女の見舞いに行った際、忙しい久弥さんとの新婚生活を心配され、たくさん彼の話を聞かせてくれた。仕事をしているときは、あまり食べないことも。

「にしても帰る時間を告げてはいなかったし、ここまで短時間で準備するのは大変だったんじゃないか?」

 眉間に皺を寄せたままでいる久弥さんに、私は軽く首を横に振った。

「いいえ。ある程度用意はしていましたから、そこまで手間じゃありませんよ」

 納得したのか疲れているからか、久弥さんは席についてコニャックをグラスに注ぐ。ストレートが好きだと聞いたが、アルコール度数が高いし時間も遅いので、トワイスアップもできるようにと水も用意した。

 久弥さんはほんの一口ストレートで楽しみ、少しだけ水を足していく。

 その様子を見届け内心で胸を撫で下ろす。ここまでしたら私の役目はほぼ終わりだ。あとはゆっくりしてもらおう。

「あの、終わったらシンクに食器を持っていってくださると助かります。それから」

「瑠衣」

 早々に退散しようとしたら、不意に彼から声がかかった。
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