だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
「瑠衣は食べたのか?」

「はい。さすがに先にいただきました」

 彼の気遣いに目を細める。念のためと味見を兼ねた同じメニューを夕飯に食べた。

「もしかまわないなら……もう少しだけここにいてくれないか?」

 踵を返しそうになっていた私に、彼から意外な言葉がかかる。

「え?」

「もちろん、無理にとは言わないが」

 つい聞き返したら、久弥さんは珍しくはっきりしない物言いで続けた。なんとなく不安げな雰囲気に慌てて返事をする。

「い、いいえ。では、失礼します」

 改めてテーブルを挟んで彼の前に座ると、久弥さんはオムライスに口をつけるところだった。意図せず彼に注意を向けてしまう。

「うまい」

「それはよかったです」

 一口食べて漏らした彼の言葉に安心する。味見していたとはいえ、やはり人に食べてもらうのは緊張する。

 お世辞ではなかったらしく、久弥さんはスプーンを動かして美味しそうに食べ進めてくれた。

『あの子ね、意外とオムライスとかハンバーグとかそういうのが好きなの。子どもみたいでしょ?』

 光子さんにおかしそうに切り出されたのを思い出す。特段おかしいとは思わないけれど、久弥さんのイメージからするとたしかにと頷ける。

『子どもの頃食べそこねたからかもしれないわ。私も忙しくて、料理は家政婦さんにお任せしていたの。私の気が利かなくて、食事はいつも大人の好みに合わせたものを用意してもらっていてね。あの子はワガママひとつ言わなかった』

 ところが続けられた光子さんの神妙な口調に息を呑んだ。
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