だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 久弥さんは幼い頃に両親を亡くして、光子さん夫婦に育てられたと言っていた。けれど大企業のTOGAコーポレーションを経営する夫妻だ。その多忙さは計り知れない。

 久弥さんがどんな子ども時代を過ごしてきたのかと想像すると胸が痛くなった。

 だから、というわけじゃない。こんな真似をしたのは。

 久弥さんはあっという間に食べ終わり、会話する暇もなかった。慌てて食器を下げようとしたが彼が制する。

「ごちそうさま。うまかったよ、ありがとう」

「どういたしまして」

 そのまま座っておくのもなんなので、コーヒーでも淹れようと立ち上がって彼のあとを追う。寝る前なのもありノンカフェインを選んで、久弥さんにも希望を聞いて彼の分も飲み物を用意する。自然とキッチンで並ぶ形になった。

「ただ、祖母にいろいろ吹き込まれたからって、下手に気を使わなくてもかまわない。同情は御免だ」

 厳しい調子でさりげなく切り出され、私はセットしたコーヒーメーカーをじっと見つめながら答える。

「同情なんてできる立場にないですよ。共感はとてもできますけど」

 突き刺さるような視線を感じ、私も彼の方を向いた。

「難しく考えすぎです。久弥さんは私を……妻を買ったんですよね? なら少しくらい夫としての特権を享受してもいいんじゃないでしょうか。私は、なにもせずお金をもらって平然としていられる人間じゃないんです。これくらい妻の仕事としてさせてください」

 真面目に告げたら、久弥さんは大きく目を見開いた。そして険しい表情から一転、くっくっと喉を鳴らして笑いだす。
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